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えと・おーるつうしん39号
[2005.03.30]
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竹内敏晴「からだとことばのレッスン」ご案内 by NAGI
2006年1月29日〜30日
「はるのうら〜らのすみだがわ〜」
一人一人がみんなの前で歌う「レッスン」が始まった。
竹内さんのちょっとした示唆が入る。
それは「のどを広げる」とか「姿勢をかえる」とか「下あごの緊張をとる」とか「あがっている胸郭を下げる」とかいうほんのちょっとした示唆なのだけど、声が見る見るうちにかわってくる。
自分のときはあまりよくわからなかった。歌うことに集中していて「聞く」どころじゃない。
でも、「あごを緩めて」といわれてそれを試みると、声が楽に心地よく出るのを感じた。
驚いたのは、60歳代の女性のとき。
話すときは近くによってやわらかくささやくようにしか声を出さない人だ。これまで一度も大きな声をしているのを聞いたことがない。
それがレッスンを繰り返すうちにだんだんと「声」が出てきて、「か〜いのしずくをうたときく〜、ながれをな〜ににたとうべき〜」という、最後のところでは野太い、つややかな,生命力あふれる声が、生まれた。声が生きもののように、会場の空気を割ってうねっていった。
一番ビックリしていたのは本人。「生まれて初めてです。ドからソまでの音しか出なかったのに。それから上の音は裏声でしか歌ったことがなかったのに」と目を丸くして言われた。「いい冥土の土産ができました」ということばには、彼女の父親ほどの年齢の、竹内さんは思わず苦笑い。
かすれたような声で歌い始めた30歳代の女性。竹内さんが「手を振って」「声を前に前に出して」と言う。
だんだんとからだがのってくる。
汗びっしょりになって、彼女は何度も歌った。音程がずれても、おかまいなし、歌うことに集中してきた・・・。
声がいのちの活動を始めた。
思わず涙がにじんだ。
決して上手ではない、音程が外れて、美声には遠い。でも、彼女の声は、からだからあふれ出ていた。
どうして涙が出るのか分からなかった。でも彼女の調子はずれの歌が私の中にあるものを揺さぶっていった。
「歌」って、こういうものなんだ。
竹内さんの言われるように,上手に歌うことは「歌手」にまかせておけばいい、私たちはからだのなかにある「情動」を出していけばいい。それのない歌は「歌」ではない。
うまくことばで伝えられないが、あの会場にいた私たちは、たしかにそれを「感じた」。
そして、このことはただ単に「歌」だけのことにとどまらないのだ。中にうごめいている情動を身のうちから出すということをしないで,つまり口先だけのことばで相手に伝えようとしても伝わらないのが当たり前ということが実感される。
「わたし」を伝えたい――今度そういう思いが突き上げたとき,私は今日からだに受け取ったことをきっと思い出すだろう。
そう思ったとき生き生きとした力がみなぎるのを感じた。
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