42 えと・おーるつうしん42号 [2005.09.30] ■竹内敏晴レッスン
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■ある学習塾の日誌
■せっかくガンに…
■げんきだより No.47より


げんきだより NO.47 より
 とらいあんぐる体操教室        by Y.A

はじめに

巨大な台風カトリーナがアメリカを襲いました。テレビから飛び込んでくる映像は、世界大国アメリカの舞台裏を見せつけました。数日後、日本にも同じような大きな台風がやってきました。私は雨が降り始めると窓を閉め切り、テレビの報道ニュースを見ていました。
近年、地球温暖化により、台風は多発生し巨大化してきています。蒸し暑さで、扇風機からエアコンに切り替えながら、こうして私も地球を温暖化させているのだと思いました。電気代がもったいないと思いながらも、ガソリンがこんなに高くなろうとも、快適さや便利さを優先させ、それでもなんとか暮らしてゆける豊かさの中、これらを手放す勇気は、どんな被害を目の当たりにしても持つことができないのでしょうか?


姉・弟

 体操教室が終わって、みんな帰っているのに、りさちゃんとゆうだいくんだけが、柔道場の畳のところでなにかしています。どうしたのかと靴箱のところで待っていると、やってきたりさちゃんが、
「先生、水筒のふたがきちんと閉まってなかって、カバンの中でお茶がこぼれたんよ。入れていたタオルもびしょびしょで…」
「畳は大丈夫だった?ふいた?」
「ふいたんだけど…タオルもぬれてるから…ちゃんとふけなかった…」
「あーそうか、じゃあ先生のタオルでふきにいこう。」

 りさちゃんと私の後を、ちょっと不安そうに弟のゆうだいくんがついてきます。私が自分のタオルでぬれていた場所をきれいに拭くと、りさちゃんは、「先生、ありがとう」とお礼を言いました。傍にゆうだいくんがほっとした顔をして立っていました。
 みんなが次々帰っていく中、お姉ちゃんのりさちゃんは手提げの中でこぼれてしまったお茶の始末を必死でしていたのでしょう。その様子を弟のゆうだいくんは不安そうに見ていたに違いありません。ふたりの姿を想うと胸が熱くなります。そして、畳をぬれたまま放っておかなかったりさちゃんを、私は偉いと思いました。きっと、ゆうだいくんもそう思ったにちがいありません。

 4歳になったばかりのそらくんが、おでこにカットバンを貼ってやってきました。一緒に来た幼稚園年長さんのひなたちゃんがポシェットをごそごそさせながらこう言いました。
「先生、そら、ケガして血がドバーッと出たんよ。カットバンがとれたら、これ貼るんだよ。」
彼女はポシェットの中からカットバンを出して私に見せてくれました。
「わかった。とれたらこれ貼るんだね。先生も気をつけておくよ。」
 ひなたちゃんが、弟の様子を説明している間に、そらくん本人は人ごとのように、もうどこかに走っていってしまいました。
 後からお母さんが来られました。「ひなたはちゃんと伝えましたか?そらがおでこを切って縫っているんですけど、お医者さんはやってもいいと言われたんです。ただ、カットバンだけははずさないようにと。」
「はい。ひなちゃんがちゃんと教えてくれましたよ。」
「あの子はなかなか話せないので、練習をさせようと思ったんです。きちんと先生にお話できるように。」
 弟のことをまかされた小さなお姉ちゃん、一方、気楽な弟…「おーい、そらくん、大きくなってきみもいつか、このお姉ちゃんを助けてあげるんだよ。」


夏・集中レッスン

夏、今年も小学生大会が行われました。今年は岡山国体を秋に控え、新しい体育館が完成しました。桃太郎アリーナと名付けられたこの新体育館で子どもたちは精一杯の演技を見せてくれたのです。
初めてこの大会に出場しようと決めた子どもたちは、練習中から不安が隠しきれません。練習時間に少し遅れただけで固まってしまったり、できていた技が何度か失敗すると、涙ぐみ沈んでしまったり…それでも、途中で投げ出すことをせず、最後まであきらめず練習をした5日間はきっとからだのどこかで生きているのだと思います。

「おい、先生、頭掻いてくれ。オレ手が離せんのじゃ。」 鉄棒の上で、はやてくんが言います。 「おー、そこそこ。ありがと。」 確かに鉄棒の上では手は離せません。
「おい、先生、蝉がうるせえからできん。止めてきてくれ。」
はやてくんの言葉は本当におもしろいです。自分の気持ちをそのまま伝えてくれるからです。そんなとらいあんぐるの元気印の彼にも『今の子どもだな』と感じる瞬間がありました。練習中、得意な跳び箱で猛スピードのまま突っ込んで失敗したのです。周りに気づかれないようにそっと涙を拭っている姿は、今の繊細な一年生の子どもでした。
そんな彼、大会当日は、マット運動の最中に鼻が痒くなったのです。何度も鼻を掻きながら演技をするはやちゃんが、おかしくてかわいくてたまりませんでした。演技を終えた彼に 「鼻掻かないでね。次の鉄棒も跳び箱もが離せんよ」と笑いをこらえて言う私に、 「わかった」 と緊張した真剣な顔で彼は答えました。
 鉄棒の練習でだいちゃんに尋ねました。「だいちゃんはどんな逆上がりをしてくれるのかな?」だいちゃんは頼りなさそうに 「なんでもできるわ」 と、からだをクネクネさせながら答えました。なんでもできる…ほんとかい?そう思いながら、 「そうか、じゃあお膝を伸ばしていってもらおう。難しいよぉ。」
「ええよ」 そう言うと彼はからだをくねらせながら、鉄棒を握り、震えながら膝を伸ばし、逆上がりをしたのです。
「だいちゃん、やればできるじゃん。すっごーい。」
「まあな」 そう言って彼は鉄棒の上でからだをクネクネさせました。だいちゃんのこの姿、自信あるようで、ないようで、実はあるらしい…ほんとおかしいです。

「あのね、ゆうこ先生、ひざがまがってるとおもうんだけど。」
「ああ、みすずちゃんの膝?」
「ううん、あたしじゃない。ほら…」みすずちゃんの指差す方を見ると、みずきちゃんが一生懸命、側転の練習をしていました。確かにみずきちゃんの膝は曲がっていましたが、なんと、その膝の曲がり方が、みすずちゃんとそっくりなのです。私はおもわず吹き出しそうになりました。 「ほんとだ。みずきちゃんの膝曲がってるね。でも、みすずちゃんもあんなになってるよ。」
「ええーっ、うーん。」 人差し指を口にあて、大きな目で不思議そうに私を見るみすずちゃん。人のことはよくわかるけれど、案外自分のことはわからないものです。それからみすずちゃんは、足を伸ばす練習を頑張ってやっていました。
りょうくんは、運動が苦手でとらいあんぐるにやって来た子どものひとりです。普段からとても真面目で、一生懸命練習します。昨年、入会して半年にもならないのに大会に出ることを決めました。そして、頑張って練習しました。今年もチャレンジすることにしたのです。今年りょうくんは4年生なので、高学年の規定になります。昨年の低学年の規定より随分難しくなりました。それでも、グズグズ言わず汗だくで黙々と練習する彼をすごいと思いました。どんなに上手くいかなくても、泣くことも怒ったりすねたりすることもなく、練習を繰り返すことができる子どもは、今そんなに多くいません。彼の頑張りは、私にも真似ができないような気がします。彼は確実に上手くなりました。『努力』とか『根性』という言葉は今、流行りませんが、りょうくんを見ていて、たいしたものだと心から感じました。

 私たちの世代は、努力して頑張ることが大切だと教えられ育ちました。今、頑張らない生き方があること、また、頑張りすぎて、からだや心を壊すことがあることも知っています。『頑張る』という感覚は、人によって違います。そして、誰のためにやっているか、何のためにやっているかでも違うと思います。自分のために、自分のやりたいことを頑張ることは、そんなにたいそうな頑張りには感じないもののように私は想うのです。



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