43 えと・おーるつうしん43号 [2005.11.30] ■竹内敏晴レッスン
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ある学習塾の日誌2        by M.Y

● 帰る時間になってもなかなかその日の予定をこなしていないT美さん(小4)

あわててやり終え、1週間分の宿題をあわただしく決め、持ち物をかき集め、走って帰るのがT美さんのいつもの光景だった。なかなか学習が進まないのは、絵を描いたり、周囲の子どもたちや人のちょっとした会話が気になり、席を立って参加しようとするからだ。

書店で「4つの気質と個性のしくみ シュタイナーの人間観」(ヘルムート・エラー著 鳥山雅代訳)という本が目にとまった。中をめくると、子どもたちの気質(多血質・胆汁質・憂鬱質・粘液質)とその対処法が書かれているらしかった。買うことにした。もしかしたら参考になるかも、と思いながらも本棚で1ヶ月が過ぎた。

「31リーディング」(アトリエ21℃主催、毎月第4金曜日)という読書の時間がある。なかなか読めない本を持ち寄って、31分で読んでしまおうという試みだ。ちょうどいいので31リーディングで読んだら、笑えるくらいあてはまる気質の子どもたちが目に浮かんできた。
T美さんの場合は、多血質にちがいない。
身の回りのものすべてが大好き。
ほがらかで明るい。
すばやく軽やか=落ち着きがない。
なにかあったときの反応は「おかしい」=笑う。
あきっぽい。
親しみをもって人と接する。

まさに教室で見せる顔は、そんな感じだ。多血質の子どもには、「目を見て話すといい」(ふ〜むなるほど。たしかに目を見ていないときは、返事はあっても伝わっていないことが多い。「それで、今日はなにやるんだったっけ?」なんて、数分前に話したことを聞きに来ることがあるもんなあ)。

「多血質の子どもには、少しのあいだだけ興味をもてばいいような対象を与えましょう。すぐに忘れてしまってもかまわないものがいいでしょう。これは、長時間つづけさせる必要はありません。適当な時間を見計らって、子どもからその対象をとりあげます。そうなると、子どもはその対象をもう一度ほしがるでしょう。多血質の子どもにとって、自分からほしがるということが重要なのです」(そうだよなあ。いつまでも、同じ問題をやっているとき、『もう終わり』って言ったら、急にやりだすもんなあ。でも、それもその場かぎりになるので、また同じことになっちゃうし…)。
などと考えつつ、31リーディングを終えた。

たまたま本を読んだ日の夕方がT美ちゃんが来る日だった。T美ちゃんの顔を見たら、「対象をとりあげる」という言葉がよみがえってきた。T美ちゃんが、自分からほしがるようにうまく教材をとりあげる方法はないものかと思ったら、「スケジュールを立てる」が浮かんだ。計算・文章題・漢字の三つをやるから、「○分たったら、途中でもそこで終わり」というルールをつくればいい(そうだ、これでいってみよう!)

学習をはじめる前に「T美ちゃんが帰るまでのスケジュール」をいっしょに考えることにした。まず、学習を終える時間から聞いてみた。

T :「35分で終わる」
私:「はあ? いつもは1時間半くらいかかってるのに?」
T :「まあ、なんとかなるさ」
私:「あっそう。じゃあ、なにからやる?」
T :「そうだなあ。文章題からかな」
私:「じゃあ、文章題を20分?」
T :「いや、今日は15分で終わらせる」(ホワイトボードに書く)
私:「ほお、それから?」
T :「先週は、漢字をやる時間がなくなっちゃったから、2番目は漢字を10分」
私:「答えあわせを入れて10分だよ」
T :「わかった、わかった。だいじょうぶだよ。最後は計算問題を10分ね」

ということで、やりはじめたT美ちゃんだが、あいかわらず文章題にとりかかる前に絵を描いて遊んでいる。だいじょうぶかいなと思っていたら、10分後にはじめて、5分間集中し、ほんとに15分で終えてしまった。
次は漢字。10分経過したところで、「時間だよ」と告げると、「もうすぐだから、もうちょっとやらせて!」と最後までやり遂げた(「対象をとりあげる」と同じ効果だ)。答え合わせもいれて20分。こんなに集中したT美さんを見るのはほんとに久しぶりだ(いつもは、自分で答えを合わせるのをいやがるのに)。
最後の計算は、「答え合わせをする時間がいるから、5分を計って」とストップウォッチを渡された(いつもは「5分でやめる」というやり方をいやがって、「○問やる」と言うんだけどなあ)。

けっきょく、その日は1週間の宿題を決める時間も含めて50分で終わった。35分という目標はオーバーしたものの、いつもより30分以上はやい。翌週も快調だった。T美ちゃんにとって、スケジュールを決めるのは、思いのほかいいみたいだ。自分から取り組む姿を見るのは楽しい。一人ひとりに合った学習プログラムが組めたらいいなあ。



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