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えと・おーるつうしん31号
[2003.11.15]
■竹内敏晴レッスン
■交流広場より
■べてるの集いを終えて
■口先徒然草16
■旅物語 らくだに乗って
■それで順調!
向谷地・平井対談から
「それで順調!」 by M.I
子育ても人生も・・・
困った時こそチャンスです!
9月14日、岡山西ふれあいセンターで、北海道浦河の
“べてるの家”の向谷地生良氏
(北海道医療大学助教授・日赤病院医療ソーシャルワーカー)と
“らくだ教育”の平井雷太氏
(セルフラーニング研究所)の対談を企画しました。(主催:セルフラーニングを考える会)
当日は“べてる”のビデオ『ベリーオーディナリーピープル』と“らくだ”のビデオ『見えない学校』をそれぞれ10分ずつ上映した後、お2人にインタビュー形式で対談していただきました。後半は会場からたくさん書いていただきました質問をもとにお2人に答えていただくという展開で場が進んでいきました。
2時間半の対談の中から少しご紹介したいと思います。
【どうしたら子どもに任せられるか?】
平井 :
お母さんが子ども見るときに、この子をどうにかできるって思ってるのと、この子はこの子なりに自分でやってくって思えるかで、関わり方は随分変わると思うんですよね。多くの病院の場合には治そうとしますが、べてるは違いますよね。そこに辿り着くまでにはかなりの時間もかかっていると思うんですが、どこまで本人に任せられるかという方向でずっーと来たと思うんですね。そこでお母さんたちが、どうしたら子どもに任せられるかみたいな、考え方・発想はありますか。
これだったら使えるなという話。また、そういう転換はどうすると起きるのかがあればお願いします。
向谷地 :
浦河に来たころの私のソーシャルワーカーとしての仕事ぶりってのはかなりお世話型っていうか、一生懸命手をかけてたんですね。お酒のみ過ぎてお金がなくなった患者さんには、お金はあげられないけど、せっせと物を運んだりとか。とにかく一生懸命、ああしたらいい、こうしたらいいってやり尽くすタイプだったですね。
ところが、いまのべてるの家に精神科を退院してきた仲間たちと足掛け3年暮らして、徹底的に私は打ちのめされたんですね。頑張っても頑張ってもいい結果が出ない。あれが自分のひとつの転換期っていうか、自分は何もできないんだってことを、一番駆け出しの頃に徹底して学んだんです。そうやって自分が無力になればなるほど、逆に見えてくるものがある。そこで私のスタンスはすごく変わったんですね。
私はソーシャルワーカーですから相談されるのが仕事なんですけど、だんだん私は患者さんっていうか仲間や当事者に相談することが多くなりましたね。
平井 :
周りに対して、向谷地さんが。
向谷地 :
私は相談受ける側なのに、相談を受けるよりも相談することの方がどんどんどんどん多くなってきた。そういう逆転現象が起こってるんです。
「実は昨日こういう事で困ったっていうメンバーがいるんだけれど、なんか良いアイディアある」って別なメンバーにすぐ相談するとか。「誰々さんがこんなことで困っているんだけれど、ちょっと力貸してもらえないだろうか」だとかね。
平井 :
そういうふうに聞けるのは、自分が味わってしまった無力感みたいなのがベースになってるんですか。
向谷地 :
私にはできることとできないことがあるんだって、わきまえるって当り前のことなんですよね。
平井 :
例えばお母さんが、子どものために一生懸命になって、もう思い通りになんなくって、やればやるほど大変な状況になって、無力感を味わうっていうか、そのプロセスはけっこう大事なんですね。
だとしたら最初からうまくいく子育てなんていうのは、あんまり意味がないですね。
向谷地 :
お母さんが、自分の子育てに行き詰まり、無力感を感じるということは、とてもいい順調なことだし…。
平井 :
徹底してやり尽くす、過保護だったらとことんやる。
向谷地 :
おおいに過保護をやり尽くしたらいいですよね。統合失調症の人たちは、何で俺は頑張れないんだろうとか、何で俺は長続きしないんだろうとか、何で俺すぐダメなんだろうとか、また幻聴が聞こえてきたとか、こうやって話してる前を金魚が飛んでたりとかですね、そういう現象が起きるわけですね。それを自分で何とかしよう、何とか人並みに自立しようと頑張る時期って必ずあるんです。でもどうしようもなくて、だんだん自分に対して無力になってくるといい味出てきますよね。
先日も、ものすごい爆発で苦しんでいる青年が、また爆発して「向谷地さん、俺もう絶望的だわ」って言ったときにね、僕は「こいつよくなったな」と思いましたね。
【「飲まされる薬」から「飲む薬」へ】
平井 :
今日お話聞くときにですね、僕との接点でどういうふうに聞こうかと思ったときに、向谷地さんがなさっているのは「治さない医療」ってよく言われてて、僕は「教えない教育」って言われてて、「教えない教育」と「治さない医療」の接点みたいなことを考えていくと、精神科医は薬を出しますよね。その薬と、子どもと話し合いながら宿題のプリントを子どもが決める話は、接点がありそうなんですが。
九州の方のある精神病院では薬の代わりにらくだのプリント出そうかみたいな話がいま起きてたりするんですけど、そんなことで治さないってこととか、薬とは何かみたいなことも含めて、お話していただけないでしょうか。
向谷地 :
私はべてるの仲間たちと付き合って、つくづくテーマは自立だって思うんですね。
仮に自分が統合失調症・分裂病で、この病気が奇跡的に治っても、自分の人生はそれで幸せになんか絶対ならないんですね。自立とは、自分のことを自分のこととして引き受けていく。しかし、自分だけじゃなくて、共にっていう人のつながりの中で生きていく、ということです。そういう意味では、セルフラーニングは自分でやるということだけど、自分だけじゃない。常に人のつながりの中で、自分で自分の中に学びを見出していくプロセスは、私たちの当事者研究という考え方と似ていると思います。
いままでは具合悪くなったらお医者さんに全部任せてたんですね。ですが、さっきの林さんの例にあるように、自分に起きていることを自分で考えて、自分で対処する。そこで自分に対する学びが起きている。今回こうやって苦労したから、じゃあ次はこういうやりかたしてみようか。みたいなことをしていると色んなアイディアが生まれてきて、学びが深まって、どんどんどんどん学習が進んでいくんです。そういう意味では、らくだのプリントは非常にシンプルですけれども、まさにその精神を受け継いでいると感じます。
薬にしても、今までは「飲まされる薬」っていうか、特に精神科の分野ではですね、まず病名を知らされない、どんな病気なのか全く知らされないで、一方的に薬を餌のごとく与えられるってのが、まだまだ主流です。糖尿病でありながら、病名も知らない、カロリーコントロールの仕方も知らされないままに、ただ私を信じなさい、「私に任せなさい的」な医療が行なわれている。だから患者さんはもし低血糖になったり、高血糖になってもその症状に対して自分の判断が効かない。それで具合悪くなって再入院するようなことを繰り返しているっていうのが、今日本中で起きているわけですね。そして薬ってこと自体が、まだ自分のものになっていない。
ですから「飲まされる薬」はやめて、「飲む薬」にしようって私たちはよく言うんですけど、こりゃ本当に医療だけじゃなく全てのことに共通してますね。
(中略)
向谷地 :
普通、学校なんかで足算や引算とかそういうことができるようになったとか、漢字を沢山覚えれるようになった、そういうことと、その子どもがどう生きてるかってことはあまり結びつかない。知識が増えるということと、どう生きるかってことは、なんか分離された形で、教育ってのが成り立っている感じがするんですけど。らくだのプリントなんか見ると、生きるってことと知るっていうこと学ぶってことが重なってますよね。プリントの思想の中にね。
平井 :
最初そうじゃなかったんですけどね。
向谷地 :
その辺が、面白いなっていう感じがしたんですね。どうしてそれが重要かっていうと、例えば精神裂病になったり、精神的な生きづらさを抱えてしまって、困った人たちは勿論回復を望んだり、この辛い症状が早くなくなればいい、もっと生きやすくなればいいと思うわけですよね。それでもし特効薬ができてそういう症状がきれいさっぱり取れるようになったときに、実はその人たちって一番悩むんですよね。どうやって生きていけば良いか分からなくなるんです。病気が治ることと、その人が生きやすくなるってことは直接には繋がらないんですよね。そういう現象が起きて、やっぱり病気の方が良かったって、前の分かりづらい病気の世界に患者さんたちが戻ろうとする。そういう現象が起きてしまう。
学びが増えていくとか、知識が増えていくってことは、ある意味病気が治るっていうプロセスと同じなんですね。ですから、それと同時にどう生きるかっていう力の蓄えがないと、結局知識や情報が増えた向こうにある人間関係も含めて、苦労に飲み込まれていくみたいな感じがするんです。
そういう意味では、らくだのプリントは知らず知らずの内に生きる体力を蓄えていくっていう、そんな感じがするんですけれどね。いろんなとこでそういう自立した学習とか、自立した生き方とか、自立した苦労の仕方とか、そういうことが大事になってきていると実感しますね。
今回の講演をテープ起こししましたら、字数にして約39000字になりました。この講演を主催したセルフラーニングを考える会では、今回の講演を当日だけで終わらせるのは、非常にもったいないということで、当日のテープとテープを起こした冊子、感想や当日会場で出た質問をセットで販売することにしました。セット価格は当日入場料と同じ1500円です。
ご希望の方は創育舎( 086‐264‐1419 )までご連絡ください。注文はお電話もしくはファックスでお願いします。なお、えとおーるの読者には送料なしで送らせていただきますので、注文の際はその旨お伝えください。
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