私のペットはメダカです。メダカは無精者にとってとても都合のいい生き物です。
夏、活動の活発な季節はほとんど毎日餌を与えますが、数日、時には一月留守をして餌を与えなくても元気です。冬になると、時々様子を見るだけで、まったく餌も与えず、水も代えません。
この冬、はや何度が氷が張りましたが、氷のとけるのを待って昼間にはまた元気に泳いでいます。メダカはまったくこちらの都合のいいときだけ相手をすればいいのです。
数年前、知り合いが「ここにはメダカを飼うのにちょうどいいカメがある」と、傘立てとして玄関に置いていた大きなつぼにメダカを入れていきました。水も餌も持参して。
私の意思で飼い始めたのではないのですが、それでも何年も飼っていると、「私のメダカ」への愛おしさはひとしおです。
その「愛しいメダカ」が、予期せぬ災難に見舞われました。昨年の初夏、一昼夜のうちに大量に死んだのです。それも、特別大きな、きれいな姫メダカたちが。
飼い始めて今まで一度も死骸を見なかったので、メダカの寿命ってどれくらいだろう、何年くらい生き続けるんだろうと思っていました。
同じ頃にうまれたメダカだからって、同じ日に死んでしまうなんて不自然です。
死因をあれこれ考えました。「事件」数日前、メダカ専用の餌がなくなったので、たまたま家にあった金魚の餌を小さく砕いて何度か与えたことを思い出しました。あれが悪かったのかしら。金魚の餌を沢山食べたメダカだけが弱って死んだのかも・・・。
様々な推論の挙句、「犯人」は、メダカの水槽にほんの少し葉っぱのかかったエンジェルトランペットだとわかったのです。「エンジェル」という名前に魅せられた私は、とびきり大きな鉢植えのその花を玄関のメダカの水槽のそばに置いていました。
初夏、気温の上昇とともにエンジェルトランペットはどんどん大きくなり、枝をひろげました。そして、その季節にはちょっと早い台風が強い風とともに雨を運び、エンジェルトランペペットの葉を伝ってメダカの水槽に落ちたのです。
「あれは毒があるのよ」と、薬学部出身の友人が教えてくれていたのに、「エンジェル」という名前がすっかり気にいっているわたしは、そんな忠告を聞こうともしないで、メダカのそばで毎日せっせと水やりし大切に育てていました。
夏の日差しは強く、メダカの水槽の水温は、お風呂のお湯のようになることもあります。日差しを少しでも遮って水温の上昇を押さえようとメダカたちへの配慮のつもりで、ぴったり寄り添うように鉢を置いていたのです。
エンジェルトランペット、別名朝鮮朝顔。猛毒の雑草で、江戸時代花岡青洲がこれを用いて、世界で初めて全身麻酔手術に成功した。
それでもエンジェルトランペットを処分する勇気はなく、メダカの水槽に雨が伝い落ちないように少しだけ移動させました。ただそれまでは甘美な芳香と感じていた花の香りが、怪しく不気味に感じるようになってしまいました。
「猛毒の雑草」 の生命力はしたたかで、路地植えのものは一度に百以上の花を付け、12月中旬までも咲き続けました。
「甘いことばは悪魔のささやき」
私の愛しいメダカたちが命をかけて教えてくれた手痛い教訓でした。
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