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えと・おーるつうしん47号
[2006.07.31]
■げんきだよりNo.51
■最近のいろんなこと22
■あさがお新聞vol6
■口先徒然草
げんきだより NO.51 より(2006.07) by Y.A
はじめに
『初心』という言葉を胸に51号を書き始めようと思います。50号を書き終え一区切りをつけたのですが、現場の子どもたちは相変わらずおもしろいことをやってくれます。そうすると、また、伝えたくなるんですね。
学生時代の恩師、山本清洋先生(鹿児島大学教育学部教授)が、最新の著書『子どもスポーツの意味解釈』を贈って下さいました。その本の最後の部分に、子どものスポーツ教育に対してのコメントが、わかりやすい言葉で書かれていました。そして、そこに書かれていることは、このような仕事をしている私に勇気を与えてくれました。
「競技力向上、発育発達を図る上でも、(特殊な種目を除いて)子ども期には多様なスポーをすることが必要であると、多くの識者が指摘している」…
私も学生時代そう学習しました。しかし、現在ほとんどのスポーツクラブやスポーツ少年団では、ひとつの種目を多量に練習するという現象が起きています。勝利を周りの大人から強く期待されることで、指導者も勝つことが何より最優先となり、色々なことをするより、ひとつのスポーツをたくさん練習することが、勝利につながる近道と考えるからです。それによって起こる弊害はあまり問題視されていないように感じます。
さて、とらいあんぐるでは、マットや跳び箱、鉄棒も行えば、ボールあそびや縄跳び、綱引きから相撲、かけっこ、リレー、鬼あそびなど多様な運動あそびを行っています。どうやら、他ではあまり見られない珍しい教室のようです。もちろん、私は子どもにとって大切だと信じてやっているのですが、この本を読んで、方向性は間違っていないことを確認できました。
「今」を友だちといっしょに楽しくすごしたい、運動が上手になりたいと思っている子どもたちと、子どもの心身の成長や、将来を考えている親との運動に対する期待は違うようですが、本人が、うまくなることを実感でき、毎回が楽しいと感じられる教室づくりをしていきたいと思います。それが結果的には、子どもの成長や将来につながるのではないでしょうか。
たっちゃんの勇気
たっちゃんは、少し前から体育館に置いてある黒板に何か書きたいらしく、何度か、私にチョークを貸してほしいと言いにきました。私が「この黒板は使えないんだよ」と断ると、いつも残念そうに諦めていたのです。この日、黒板の所に置いてあった黒板消しで遊んでいたたっちゃんを、ひとみちゃんが追いかけていました。遊んでいたのか、取り合いになったのかわかりませんが、しばらくして…たっちゃんが突然、黒板消しを投げました。「パッチーン」という音がし、少し慌てているたっちゃんの姿が見えました。私が駆け寄ると、彼は割れた黒板消しのかけらをもってくっつけようとしています。
「こわれたね」と私が言うと「くっつくかなあ」と彼。「くっつかないね」…たっちゃんはなんとかくっつけようと必死ですが、ポロりとすぐに離れてしまいます。
「ゆうこせんせい、セロテープで貼って。」「貼ってもきっとすぐとれると思うよ。ねえ、たっちゃん、これは誰のものですか?」
「とらいあんぐるの…」
「ちがうんだ。これは体育館のものだよ。自分のものを投げてこわしたのなら仕方ないけど、人のものを勝手に使ってこわしたんだから、元通りにして返さないといけないね。」
「弁償?」「そうね。そう言われるかも」 … 「あー、どうしよう」たっちゃんは不安そうな暗い顔で沈んでいます。
「とにかく、事務所に行こう。ちゃんと謝って、弁償と言われたら考えよう。」「誰が行くん?」
「もちろん、たっちゃん。大丈夫、先生も一緒に行くから。」
「イヤだ、いやだーぁ。」「大丈夫。先生も一緒だから。一緒に行って謝ろう」そう言って、彼の手を引き部屋を出ました。
彼は少し震え、「投げるんじゃなかった。投げたらいけないこと知ってたのに。なんで投げたんだろう。」と何度も繰り返し、とても後悔していました。私の手を強く握り、こんなに反省し、不安がっている彼の手を握りかえしながら、切なさが込み上げてきました。そんな気持ちの中、それでも彼の手を引き、事務所に入りました。そして、体育館の人に、「あのー、この黒板消しなんですが…」と私が話し始めた、その時です。突然私の手をふりほどいたたっちゃんは、頭をしっかり下げ、深くお辞儀をして、大きな声で叫びました。
「ぼくです。ぼくがしました。こわしました。ぼくです。ごめんなさい。ゆるしてください。」…声が震えています。涙も出ています。その彼の態度に私は胸が一杯になり、涙をこらえました。
結局、彼は私に一言も言わせず、ひとりで謝りきったのです。彼を尊敬します。そして、こんなにかっこいい子どもを私は見たことがありません。
しんちゃんの評価
しんちゃんは今、ビールにはまっています。世界のビール、各地の限定ビールから季節限定ビールまで、驚くほどビールの種類を知っているのです。自宅の二階には『酒の笹野』という酒屋を作っていて、空きカンを並べ、特価の広告は自作しています。二階の入り口には「営業中」とか「準備中・本日は閉店しました」の札まで掛けてあるそうです。もちろん自作です。空き箱と空きカンで作ったギフトセットも見せてくれましたが、まあ、とにかく半端ではないのです。そんな彼はビールを多量に飲む人が大好きです。
「ゆうこせんせい、ビール飲む?」「飲むよ」
「昨日、飲んだ?何飲んだ?」 「ダイエット」
「ダイエット飲んだん?うすくなかった?お父さんは、カロリーオフのはうすい言うとったよ。ゆうこせんせいはうすくないん?」
しんちゃんは側にいる大人に訊きます。「ビール何が好き?」
ビールが大好きでさらにお酒や焼酎・ワインなど、要するに大酒飲みはしんちゃんの評価を得るのです。たっちゃんのお母さんにも訊いていました。
「おばちゃん、ビール飲む?」「おばちゃんは、飲まないんよ。うちはおじちゃんも飲まないから、家にあるのは料理酒ぐらいかなあ。」
「しんちゃん評価」なら、たっちゃんのお母さんはきっと『△』です。ゆうこ先生で『○』ぐらいでしょうか。3リットルの取っ手のついた生樽を買って飲む、りょうすけくんのお母さんは間違いなく『◎』です。
しんちゃんのお母さんの話です。今年度から学校の用務員の先生が新しく替わりました。その先生は、保護者から見ると、用務員には向いてないかと思われるような先生です。花壇の花は枯れていくし、草取りは生徒にさせて、自分は指図しかしない。しかし、若い女性にもかかわらず、お酒が大好き。しかもビールを瓶でケースごと買い、配達してもらうという話に、しんちゃんは大喜びで、学校に行くとその先生を捜して、ビールの話をするのを楽しみにしていました。ところが、その先生と学校で会わなくなったのです。他の先生に訊いてみるのですが、はっきりしたことがわかりません。ある日、先生の靴箱に靴が入っていないことを見つけた彼は、そこを通る先生方に尋ねます。すると、ひとりの先生が、辞めたんだと教えてくれたのです。しんちゃんは泣いたそうです。「瓶ビール、ケースで買ったの、まだ教えてもらってない」と。
どんなに保護者の評判がよくなくても、しんちゃんにとっては大好きな先生だったのです。
この話を聴いて、私はとても感動しました。しんちゃんの評価があまりにも純粋で自由だということに。なぜ、私たちは一定の評価に左右されるのでしょうか。人には様々な価値観があり、いろいろな評価があっていいのに。
たっちゃんやしんちゃんには、軽度の発達障害があります。しかし、たっちゃんの凛とした態度を見たり、しんちゃんの「自由」な発想を知ると、健常と呼ばれている私たちのほうが、一定の枠にはめられた不自由な中で生きているのではないのか、と感じずにはいられません。現在のように、この子たちが、生きてゆきにくい社会は、人間にとってやさしい社会であるはずがないのです。
子どもの言葉
玉野北体育館の外から聞こえてきます。「ピーポーピーポーピーポー…」
ハッとした、まなとくんが、「せんせい、しんだ」 と教えてくれました。
「まだ、死んではないと思うんだけど。」と話していると、今度は、ほのかちゃんが言いました。「せんせい、火が出た」
あゆむくんが自慢げに話してくれました。「せんせい、オレのおにいちゃん歯がおれたんで。」歯がおれた?よーく聴いてみると、乳歯が抜けたということのようでした。
「おかあさん、あかちゃんうまれるんで」やって来るなり、ひなちゃんが嬉しそうに教えてくれました。そして言いました。「弟にきまってるんで。名前は、け・い・す・け」「えー、そうなの。もうわかってるの?」「ううん、まだわからん。でも、ぜったい男の子。名前は、ひながきめた。」おいおい、ひなちゃん、お母さんはひなちゃんのような女の子がほしいって言ってたよ。
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